活動報告

静岡市議会議員として、市民の代表として。

2022.03.18

海洋文化施設建設計画。総額240億円にのぼる、合併後最大規模の建設事業が動きだします。15年間で70億円の赤字補填前提。運営が続く限り補填は続きます。討論で指摘した懸念は、今後事業を進めていく課題でもあります。しっかりと、検証していきます。

創生静岡を代表し、議案第26号令和4年度静岡市一般会計予算の原案に反対、「海洋文化施設整備事業費」について削除修正する案に賛成の立場で討論します。

修正案提出に至った理由は3点。一点目は、収支予測に対する懸念、2点目は波及効果に関する懸念、3点目は市民理解と賛同が得られているかどうかの懸念です。

まず、1点目、収支予想に対する懸念について。

これまでの経過を振り返ります。当局は当初、独立採算が可能としていました。そののち、運営費が想定以上かかることが判明、市が2分の1の約70億円を負担することになりました。

しかし、それでもなお事業者は不安を隠せません。2019年12月の三役への情報提供の会議録には、入館者予想について、市と事業者の相反する見解が記されています。

市側の見解は「比較的小規模の公立水族館をモデルとして、15年間700万人とする。この中には、今後の周辺エリアの開発やクルーズ船寄港の影響は見込んでいないため、入館者は上振れする可能性を期待する」というもの。

しかし、一方の事業者からは「市場規模が不透明な施設であり、周辺エリアの開発やクルーズ船寄港も不確実なものと考えており、入館者見込みは市側の見込みとは乖離している。しかし、事業提案の際の入館者計画においては、市側の見込みに近づけるために、楽観的な計画を立てる必要があり、結果、入館者は下振れするリスクを考えざるを得ない」との考えを明らかにしています。

この声をもとに、市は官民によるリスク分担、プロフィット・ロスシェアを導入。事業者から見れば、本施設の事業予測が、いかに大変か推測できます。

まず、収入面から見ていきます。

市側の入館者見込みを年平均にならすと、入館者は46万人で入館料は5億円。

海洋展示の目玉は深海ザメ、テーマは駿河湾。メインの水槽は、東海大学海洋博物館の、数百トンから若干大きくなる見込み。入館者予測については、民活増加率を用いて、同規模の水族館の10%増…としています。さて、計算通りとなるかどうか。

以前、私たちは、市が需要予測の対象施設の一つとしている、石川県の「のとじま臨海公園水族館」を視察しました。開業は1982年。大規模なアスレチック施設など有する臨海公園の一部として整備されました。

2010年には、大規模改修の目玉として新たにジンベエザメ館をオープン。水量は1,600トン、日本海側最大級のパノラマ水槽で悠々と泳ぐ、ジンベエザメをはじめ、イルカやアシカのショー、ペンギンのお散歩などが人気を呼んでいる施設です。それでも、有料入館者数は2016年度で35万人です。

また、海洋文化施設の主な集客ターゲットの一つは、近隣圏域の居住者、地元の児童・学生です。あえて、本施設を教育機能を持つ施設として位置付けるからには、市内の子供たちの入館料が気になります。

想定される入館料は大人1500円、子供750円。現在、市内の子供たちも有料入館者としてカウントしているとのことで、例えば、親子4人で入館した場合は4500円。これに駐車場料金がかかることになります。

非営利とはいえ、日本平動物園の入園料は大人620円、子供150円で、駐車場代は620円。市内の中学生以下、70歳以上の入園料は無料。2019年度の入館者数51万人のうち有料入館者数は32万人です。

また、現在建設が進む歴史博物館でも小中学生の観覧料は無料。開館当初の入館者数50万人のうち、有料入館者数を14万人と試算しています。

教育機能を有する海洋文化施設として、市民からの税金で施設を建設し、さらに、市内の小中学生、児童からも入館料を徴取するのか。きわめて重要な課題です。扱によっては施設建設の賛否、運営にも影響を与える案件です。これらの疑問点について、市の方針を明確にした上で、市民への説明をすべきです。

さらに、周辺開発で位置付ける民間による駐車場の建設計画につては、入館想定をクリアするために新たに何台の整備が必要なのか。

周辺の集客施設も、海洋文化施設も、週末や長期休暇に来館者数は集中します。事業再開をするのであれば、入館者予測と駐車場整備と整合性のある明確な計画を示すべきです。

次に、コスト面です。

維持管理費は年々増高していきます。市は公共施設の耐用年数を60年としていますが、本事業の計画年数は15年です。そこから先、だれが責任を持つのか。

他市の類似施設同様、15年以降は中規模改修、三十数年後には水槽に使われるアクリル板や給排水、水質管理システムの更新など、大規模な改修が必要となるはずです。
海水を扱う施設という特殊性から、年を追うごとに維持管理費は増大する一方、展示内容は陳腐化していきます。

コロナ禍を経て、既存の水族館が将来的な事業の存続に不安を募らせる中で、本市があえて事業に着手するからには、中長期的な収支面での予測と、納税者である市民説明が不可欠です。

2点目は、波及効果に対する懸念です。

田辺市長は「公共投資を呼び水に民間投資につなげる」としています。高度成長期にはよく聞かれた話です。人口減にともなう税収減という課題に直面した今、全国の自治体は、新規拡大路線から戦略的ダウンサイジング路線に大きく舵を切り直しています。

本事業においては、先に述べた駐車場整備や、倉庫群などの周辺整備を含め、地区全体の民間投資の規模、計画、さらに清水区全体の活性化にどのように結びつくのか、具体的な姿が見えてきません。

また、コロナ前に公表された経済波及効果は18年間で600億円。

一方、アリーナ建設事業の経済波及効果は、当局の試算ではありますが、音楽興行8千席の場合、1年間で123億円。この数字の違いをどのように見るのか。検証と検討が必要です。

3点目は、市民理解と賛同が得られているかについてです。

現在の社会情勢は、新型コロナ感染症の影響がまだ色濃く、新たにロシアによるウクライナ侵攻など、日本経済へ与える影響、不安が広がっています。

田辺市長は、経済の見通しが立った今こそ再開のチャンスと話しています。

市民は、経済を回し日常を取り戻すことには理解を示すとしても、合併後最大規模の投資となる本施設の再開を、何の不安もなく、心から歓迎しているとは思えません。

2月28日、静岡商工会議所と清水区自治会連合会から「海洋文化施設の早期整備について」の要望書が提出されました。提出に至った経緯と内容について違和感があります。商工会議所会員、清水区内各単位自治会会員からの意見集約は済んでいるのでしょうか。

当局は市民の意向把握として、2018年に実施した基本計画のパブリックコメントと、2019年に実施した開港120周年イベント、地球一般公開の際に実施したアンケートをあげていますが、同時に、総額240億円に上る事業規模について、明確な説明はありませんでした。

この事業計画そのものが、市民から期待を持って受け入れられるためには、事業再開を、今後の社会情勢の見通しが明らかになる時期まで、もう少しだけ待つこと。

そして、この間に、駐車場整備など周辺開発を含む民間の投資の全貌。また、補助金など財源の確保がどうなるのか、中長期にわたるより詳細な収支予測を明らかにすることが必要です。

少なくとも、今、強引に事業を進めるより、はるかに市民の理解と賛同は得られやすいと考えるのが普通です。

本市の財政は今後、人口減少にともなう税収減と、福祉関連費用等の増大により、ますます硬直化が進んでいき、新規事業には、選択と集中が強く求められている事は、議員各位ご承知の通りです。

このような状況の中で、歴史博物館の62億円、静岡市民文化開館改修費160億円など、大型建設事業がほぼ同時にスタートします。

さらに、今、目の前の課題である、海洋文化施設建設計画に加えてこの先、清水庁舎の移転計画、アリーナ建設計画、サッカースタジアム建設計画も、検討が始まっています。

本来であるならば、これらの事業を一線に並べ、スキーム、財源確保、波及効果、複合化などを含め、慎重に比較検討を行い、事業の優先順位と強弱を決めるべきではないでしょうか。

当初予算での再開は、完全な見切り発車です。

本議会で事業の再開が原案通り議決された場合、4月には公募開始、12月にはPFI事業者との契約議案が上程され、明けて2023年には設計・建設に着手することになります。

なぜ、それほどまでに急ぐのか。

来年は市長選挙の年でもあります。田辺市長にとって、本事業が本市の将来にとって、欠くことができない重要な施策であり、市民の支持が得られるという確固たる自信があるのならば、市民に判断を委ねてはいかがでしょうか。

以上、討論とします。


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